【郷土の本】出雲街道
岡山県の郷土の本としてポピュラーなのが日本文教出版の岡山文庫です。岡山県にまつわる自然や文化、歴史などを150ページ程度にまとめられた文庫本が約60年にわたって出版されつづけており、その数は今年(2023)11月時点で332冊に上ります。その中に「出雲街道」もあり、岡山県の出雲街道について紹介されています。
わかりやすく岡山県の出雲街道を紹介
本書は岡山県内の出雲街道全体を東から順に紹介しています。萬ノ乢から始まり、四十曲峠に終わる形で、例えば美作市だと「万能峠」「土居の宿駅」「上福原~江見」「今在家」「楢原上~楢原下」「北山~上相」というように項目を並べており、岡山県の出雲街道を漏れなく紹介しています。
内容的には当サイトの「出雲街道の道のり」に近いものですが、さすがに周辺地域の市町村誌の交通関係の執筆もされている専門家による本なので、『作陽誌』からの引用や古老の話の聞き取りもあり、道の歴史についてしっかりとまとめられています。一方で、特定の話に関して極端に深掘りすることはなく、読みやすいのはもちろんのこと、西に向けて着実に進んでいる感覚を持ちながら読み進めていけるのも好感が持てます。
多数の写真を掲載
本書は写真を多用する岡山文庫らしく、多くの写真を掲載しているのも大きな特徴です。これは平成8年(1996)というインターネット普及前としてはたいへんありがたいことであったでしょうし、「出雲街道を歩こう」などで多くの写真がネット上で見られるようになった現在でも貴重な記録になっています。
杉坂峠への道の分岐にあった元禄道標の写真、津山の坪井町のアーケード商店街、茶屋の一里塚にあった江戸時代からの榎、美作追分駅の木造駅舎などは本書の出版から30年弱の間に失われてしまっています。こうした写真が世に広く出回っている書籍に残っているということは今後、ますます大きな意義を持ってくることでしょう。
「出雲街道を歩こう」と見比べてみよう
出雲街道の紹介として非常に読みやすくまとまっている本書ですが、街道を実際に歩こうとしたときの弱点は地図がないことが挙げられます。ただ、岡山県では『歴史の道調査報告書』の出雲街道の地図をネット上で公開していますし、「出雲街道を歩こう」などのサイトでも街道歩き向けのマップが作成されていますので、スマホを持ち歩くことが当たり前となった現在では大きな問題ではありません。
また、当サイトの「出雲街道の道のり」と近い内容の本だと先に述べましたが、両者を見比べていただけると、写真でも文章でも30年弱の間の変化を読み取ることができ、現代における出雲街道の変化がわかります。
このように、岡山県における出雲街道について全体を基礎から学べること、写真を多用していること、読みやすい文章であること、コンパクトな文庫本サイズで持ち歩きやすいことなど、ガイド本として最も使いやすいのが本書です。古本で出回るのを待つしかないような本とは違って入手もしやすく、郷土史についてそこまで深く掘り下げるつもりのないような方であっても、岡山県の出雲街道を歩くならぜひ手にしていただきたい本です。
『出雲街道』岡山文庫183
著者 片山薫
発行 日本文教出版
発行年 平成8年(1996)