【郷土の本】勝央町の交通

岡山県勝田郡勝央町は平成の市町村合併で周辺の市町村と合併をしておらず、面積は54.05km2と、出雲街道が通る市町村の中で最小です。しかし、出雲街道の勝間田宿が置かれるとともに、中心部である勝間田以外にも多くの古道が通っていて、昔から道がよく整備されていた地域です。そんな勝央町の交通について、古道を中心にまとめたのが本書です。

勝央町の歴史の道調査報告書

本書の前半では勝央町内の20の道を紹介しています。すべての道について詳述はされていませんが、出雲街道(国道179号)、津山真加部街道(国道429号)、福吉大町道(国道179号と国道429号の中間の東西の道)、因幡備前街道(町東部の南北の道)、河原植月道(町北部の東西の道)、新野鳥羽野街道(町北西部の南北の道)、植月勝間田道(県道67号の国道429号以南)、福吉備前道(町南西部の南北の道)の9本の古道については史跡を書き入れた図面も付けられています。これらの道について、道標、堠樹、茶屋などについて一覧表にまとめられおり、一部は写真も掲載されています。

津山市河辺地区の道標 出雲街道と津山真加部街道の分岐点だった

後半は交通史に関連する古文書の抜粋や、神社、仏閣、河川、文化財についても写真付きで紹介されています。また、江戸時代末期から明治初め頃の勝間田宿の図も独自にまとめられています。最後に出雲街道、津山真加部街道、福吉大町道の3本の東西の道について、道筋や沿道の文化財等を文章で解説されています。失われたものについての記述も見られ、貴重な記録となっています。

泣清水の六面石幢 石仏も多く紹介されている
泣清水の六面石幢 石仏も多く紹介されている

本書は全体を通して図表を多用しているのが特徴で、勝央町の古道について調べるのにはうってつけの冊子となっています。このような書籍と言えば、ほとんどの都道府県で発行された歴史の道調査報告書があり、昔の道を調べるときの基本的な資料となっていますが、本書はまさに勝央町に特化した歴史の道調査報告書と言えます。各都道府県で歴史の道調査報告書が発行されたのは平成前期ですが、本書の発行はそれより10~15年ほど早い昭和55年(1980)。この時期の勝央町と言えば、中国自動車道が開通を受けて道路の整備や工業団地の造成など大規模な開発が進み、人口も急速に増えていました。町の発展の裏で失われていく道や史跡に目を向けて、過去に例が少なかった古道の冊子を発行したのは当時の勝央町文化財保護委員会の先見の明と言えます。

勝央町の歴史の道を歩こう

勝央町は出雲街道勝間田宿が現在も続く中心市街となっていることもあり、勝間田宿の道の舗装は石畳風に整備され、町のシンボルである旧勝田郡役所の耐震工事とリニューアルも進行中、「街道祭」が毎年開催されるなど、出雲街道を活かしたまちづくりが進められています。

行政レベルの街の整備だけでなく、近年では市民レベルのまちづくり活動も活発になっており、勝間田宿では屋号等を記したプレートを表示する取り組みが行われました。現地でこれと先述した本書の図と見比べてみると、当時の勝間田宿の姿が浮かび上がってくるようです。

勝間田宿の屋号等の表示
勝間田宿の屋号等の表示

また、たくさんの古道が紹介されている本書で気づくのは、勝央町にはかなり多くの道標が存在していることです。代表的なのは町の文化財に指定されている因幡備前往来の元禄道標で、河原と豊久田の2カ所に残っています。また、国道429号に近い道筋の津山真加部街道にも多くの道標や史跡が記載されています。

河原の元禄道標
河原の元禄道標

冒頭に記したように、勝央町は地方の町としては比較的狭く、地形的にも穏やかな場所なので、本書で紹介された古道にも特筆するほどの難所はなく、気軽に行くだことができそうです。もちろん、本書は約45年前のものなので、現在では通る人のなくなった道が草木に埋もれてしまっていることも多々あるでしょうが、勝央町の里山の風景を楽しみながら、行ける範囲で勝央町の古道に出かけてみたいと思わせる一冊です。

『勝央町の交通』

編集 勝田郡勝央町文化財保護委員会

発行 勝田郡勝央町教育委員会

発行年 昭和55年(1980)

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