【郷土の本】津山の散策 にし ひがし

津山の市街は城東と城西の2地区が重要伝統的建造物群保護地区に指定されていることに象徴されるように、城下町の時代からの町割りをよく残し、歴史の見どころがたくさんあります。そんな津山の町歩きについての岡山文庫(日本文教出版)が本書です。

城下の各町をすべて紹介

本書の前半は「津山城下町めぐり」と題して津山城下の町をすべて紹介しています。津山城下町では町ごとに写真のような案内板が立てられており、それをベースに各町の成り立ちや特色を紹介しています。現地の案内板もかなり充実しているのですが、それにさらなる解説が加わることにより、津山の各町の見どころを学ぶことができます。また、本書が刊行された平成9年(1997)時点での写真や近況が記述されていることも多く、現在に至るまでの約30年間の変化を知ることができるのも興味深い点です。

中心商店街の京町
中心商店街の京町
京町の案内板
京町の案内板

公園、遺跡、文学碑、博物館、周辺寺社めぐり

城下町めぐりに続いて、公園、遺跡めぐり、文学碑めぐり、博物館めぐり、周辺寺社めぐりと津山の名所を続々と紹介しています。タイトルこそ「にし ひがし」ですが、公園・遺跡では弥生時代の沼弥生住居址群や中世の神楽尾城跡など津山城下町の北に位置する場所も紹介され、寺社では後醍醐天皇と児島高徳ゆかりの作楽神社や美作国一宮の中山神社などが紹介され、津山城跡(鶴山公園)と城下町だけではない津山の名所が紹介されています。

弥生時代の沼弥生住居址群
弥生時代の沼弥生住居址群
美作国一宮の中山神社
美作国一宮の中山神社

中でも本書の大きな特徴となっているのは文学碑めぐりです。津山には津山出身の西東三鬼の句碑をはじめ、多くの文学碑が建立されており、津山文化協会が津山城下町で「文学の散歩道」を設定しています。本書ではそれをベースに29の文学碑を紹介しています。津山に限らず、全国各地に文学碑は点在していますが、このように数多くの文学碑を実際に歩いてめぐることを念頭に置いた本は珍しいと言えるでしょう。

文学碑めぐりの内容が充実(写真の句碑は郊外のもののため本書の対象外)
文学碑めぐりの内容が充実(写真の句碑は郊外のもののため本書の対象外)

津山の町歩きの予習に最適

本書はこのように津山の名所を幅広く紹介しています。文庫本としてこれだけの場所を紹介しているので、一つ一つの解説はそれほど詳しいものではありませんが、概要を知るには十分なものです。また、このインターネット時代でも本気で検索しなければ見つからないような場所も含まれていて、自分の興味関心に合った津山の名所を見つけられることでしょう。

先述のように、津山城下町では案内板がよく整備され、現地でも町のことをよく知ることができますが、現地に来る前にその案内板の内容や解説を読んでおけば、町を実際に歩くときの視点も少し違ってくると思います。

本書のあとがきには『読者の皆さんにも城下町のあちこちで新発見を楽しんでいただきたいと筆をとりました』『本書をお供にして津山城下町の散策を楽しんでいただければ幸に存じます』とあり、本書を読んだ後に津山を実際に散策してほしいという思いを感じ取れます。本文もこれから津山を訪れようとしている人に向けたガイドとなっています。以前にご紹介した「絵図で歩く津山城下町」が実際に町歩きをする際に持ち歩きたい一冊とするなら、本書は津山を訪れる前に読んでおきたいという一冊です。

『津山の散策 にし ひがし』 岡山文庫187

著者 黒田晋 竹内平吉郎

発行 日本文教出版

発行年 平成9年(1997)

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