【郷土の本】美作の道標と出雲往来一里塚
岡山県の旧美作国では、市民有志によって「美作地域歴史研究連絡協議会」(略称:美作歴史ネット)が組織され、平成24年(2012)から令和4年(2022)までの10年間、様々な歴史研究や顕彰活動が行われました。現在は解散しましたが、「美作歴史ネット」によって3冊の本が刊行されました。本書はそのうちの1冊です。
多種多様な道標の紹介
本書の前半では美作国に残る道標を様々な視点で紹介しています。「岡山元標」の里程標、「出雲往来と津山往来のバイパス」、「西大寺元標」の里程標、「自治体道路元標」など、テーマごとにまとめられ、美作国の広い範囲で有名なものからあまり知られていないものまで、数多くの道標が考察も含めてまとめられています。出雲街道や津山往来だけでなく、様々な道の名前が登場し、かつての美作国の道路網が想像できます。
中でも興味深いのは「出雲往来と津山往来のバイパス」で、「歴史の道調査報告書」の対象となっていない道が詳述されています。現在の県道159号に近い道筋は岡山県南東部からの大山道としても利用されており、地図付きで5つの道標が紹介されています。
出雲街道の一里塚を網羅
本書の後半は出雲街道の播磨国境の萬ノ乢から伯耆国境の四十曲峠まで、全部(20カ所)の一里塚を紹介しています。史跡として保存されている一里塚、場所が特定されて標柱が建てられている一里塚跡だけでなく、現在では何もなくなっている場所も資料や地元での聞き取りをもとにかなり正確な場所を割り出し、地図に明記しているのが大きな特徴です。
さらに一里塚に植えられた樹種についての調査では松が一番多かったこと、一里塚間の距離の調査では最も長いところで6.4kmもあることなど、場所だけでない調査結果も紹介されています。
地域への波及効果も
岡山県北部では平成25年(2013)に美作国建国1300周年を記念して歴史に関する多くのイベントが開催され、それを契機に市民による歴史顕彰の活動が盛んになりました。そのような中で刊行された本書は地域の歴史に関する市民活動にも影響を与えました。
本書の刊行時、美作国の出雲街道では現地に一里塚跡とわかる表示がないところが20カ所中13カ所ありましたが、平成30年(2018)には真庭市勝山、令和4年(2022)には勝央町黒坂の一里塚に標柱が建てられました。これは場所とその根拠が明確に示されたことが地元の活動を後押しする結果になったと言えるでしょう。また、「出雲街道を歩こう」においても本書を参考に一里塚跡に実際に行って写真を撮り、「出雲街道を歩こう」やGoogleマップにアップするなど、本書の成果を大いに活用させていただいています。このように、本書は単に道標や一里塚についての研究の成果だけでなく、郷土の歴史を伝えようとする市民の行動にもつなげる成果も残した本だと言えます。
『美作の道標と出雲往来一里塚』
発行 美作地域歴史研究連絡協議会
発行年 平成29年(2017)
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