【郷土の本】溝口町ふるさと散歩1 道しるべ
鳥取県西伯郡伯耆町のうち、旧日野郡溝口町は米子平野の南端に位置し、出雲街道の溝口宿が置かれていたほか、大山道(溝口道)、新出雲街道、法勝寺往来、日野往来などが通っていました。そんな旧溝口町に残された数多くの道標を紹介しているのが本書です。

道ごとに道標を紹介
本書はまず『Ⅰ.大山道に沿って』『Ⅱ.上方道に沿って』の2つの章で溝口の二大幹線と言える大山道と出雲街道の道標を紹介しています。「歴史の道調査報告書」あるいは当サイト・当ブログでも紹介されているようなメインの道沿いの道標だけでなく、少し違った道筋の道標、個人宅で保存されている道標も掲載されています。また、移設されている道標については、旧所在地と現所在地の両方が記載されているのも特徴です。


主要街道以外の道標も
当然ながら、道標は主要な街道にのみ設置されたものではありません。本書、そして旧溝口町の大きな特徴と言えるのが『Ⅲ.村道をたずねて』で紹介されているローカルな道標です。その多くは文化財に指定されているような道標とは違って簡単な内容が自然石に刻まれているだけのもので、本書では10の道標が紹介されています。以前、荘地区周辺の道標を記事にしましたが、荘地区だけでなく、町内各地に多くの道標があることがよくわかります。

さらに、『Ⅳ.たたら道に沿って』で紹介されている鉄山の道標が、たたら製鉄が一大産業であった旧溝口町の山間部の特徴として特筆されます。伯耆町の文化財となっている藤屋炉床の近くには2つの道標があり、船越地区には「鉄山」と明記された道標もあります。

溝口の古道が浮かび上がる
本書では24もの道標が紹介されており、その数は同規模の他市町村と比較してもかなり多くなっています。これだけの数の道標についてそこに刻まれた地名を見ると、大山道や出雲街道や日野往来といった主要な街道だけではない道筋も浮かんできます。例えば、溝口の街の日野川対岸にある宇代地区には、「右 立いわ」という道標があり、出雲街道と並行するように日野川の左岸を通って旧岸本町の立岩地区に至る道があったと推測されます。

また、なくなった道標や旧溝口町に関係する道標についても記載されており、町外も含めた道標の分布と古道のネットワークを想像することもできます。余談ですが、伯備線の大山踏切のすぐ東にある長山の道標は本書ではなくなったことになっており、本書の発行から約45年が経過した現在との変化も興味深いところです。

このように、旧溝口町の道標を詳しく紹介した一冊で、旧溝口町に多くの古道が通っていたことが実感することができます。私も旧溝口町を何度も巡っていますが、これだけの数になるとまだまだ実物を見ていないものも多くあります。昭和55年(1980)の発行から約45年が経過し、その間に失われた道標もあるでしょうが、町内の全域と言って良いほど広く分布する道標を紹介している貴重な記録であり、それらを探して町内を巡る楽しみも与えてくれる一冊です。
『溝口町ふるさと散歩1 道しるべ』
編集 溝口町中央公民館文化講座 ふるさと散歩の会
発行 溝口町中央公民館
発行年 昭和55年(1980)