【郷土の本】岡山の道しるべ
岡山県にまつわる自然や文化、歴史などをまとめてきた「岡山文庫」は今年で60周年となり、これまで334冊が出版されています。今回ご紹介するのはその中でも古め、昭和51年(1976)に出版された道標の本です。
備前・備中・美作の道標をバランスよく紹介
本書では岡山県内の道標をひたすら紹介していく内容で、その数は備前41、備中60、美作30の合計131カ所に上ります。もちろん、道標の数は現存するだけでもその何倍もあるでしょうが、これだけあれば岡山県に存在する道標の傾向を読み取るには十分です。ネットがなかった時代に各地の情報を集めて実際に足を運び、それをまとめる情報収集力、取材力には感服させられます。
「出雲街道を歩こう」「だいせんみちを歩こう」で紹介している美作の道標では、兼田橋の道標や追分の道標といった出雲街道沿いにある美作を代表するような大きな道標だけでなく、地元の方の協力を得ているものの、蒜山の鳩ヶ原の石仏道標のような山奥のものも紹介されています。
まさに岡山県の道標辞典
地理的なバランスだけでなく、有名な街道で遠くの地名を示す道標、寺社を示す道標、道路元標など、その種類も多様なものが掲載されています。例えば、久世の台金屋地区、出雲街道の脇街道にある薬王寺分かれの道標も紹介されています。
このように様々な道標が数多く、そしてバランスよく取り上げている本書。通しで読んでいけば、地域ごとの傾向も見えてきます。例えば、信仰の場所として、岡山市や倉敷市の南部では由加山を指す道標が多く、次いで瀬戸内海の対岸の金毘羅、岡山市北部あたりでは最上稲荷が目立ちます。一方、美作西部や備中北部では代わりに伯耆の大山が登場します。
一つ一つの道標の解説文は短く、非常に読みやすいことから、辞書のような使い方も可能です。簡単な位置図もほとんどの道標について付けられていることから、岡山県の道標について学ぶだけでなく、現地を訪れる際の参考にもなります。
「出雲街道を歩こう」の運営のために購入した私は、まずは出雲街道の道標を調べ、次いで美作国の道標を調べるという順で本書を利用しました。現在でもネット上で得た情報と本書の内容を照合、相互補完して、実際に訪れるためのヒントにするなどしており、出雲街道の道標の調査が一段落した後も度々開いている岡山の道標の辞典となっています。
『岡山の道しるべ』 岡山文庫70
著者 巌津政右衛門
発行 日本文教出版
発行年 昭和51年(1976)