天保国絵図で見る出雲街道周辺の主な道 -1.播磨国-

「天保国絵図」は天保6年(1835)に江戸幕府によって作成が命じられ、天保9年(1838)に完成した地図で、現在、国立公文書館デジタルアーカイブで閲覧することができ、江戸時代後期の全国の様子を知るのに非常に有用な絵図です。この「天保国絵図」を使って、そこに描かれた出雲街道の村と一里塚を見てきましたが、続いては周辺の道を見てみましょう。初回は播磨国です。なお、絵図には多くの道が描かれていますが、ある程度大きい町につながる道を選んでご紹介させていただきます。

林田への道

林田は姫路市北部に位置する陣屋町で、出雲街道(因幡街道)からも近く、現在でも姫路から宍粟市経由で戸倉峠を越えて鳥取に至る国道29号が通っています。この林田への道は石倉村から北上していく道、野部村からの道、横内からの林田川沿いの道の3つが細線で描かれています。

林田の街並み
林田の街並み

龍野への道

龍野には重要伝統的建造物群保存地区にも指定された城下町があり、西播磨を代表する町の一つと言えますが、城下には山陽道も出雲街道(因幡街道)も通っていません。その北を通る出雲街道から龍野への道は横内から現在の本竜野駅の北に位置する日飼村を経て揖保川を渡る道が細線で描かれているのみで、揖保川右岸を通る現在の国道179号の道筋は描かれていません。龍野へは山陽道に直接アクセスする道の方がよく利用されていたのでしょう。

龍野城跡
龍野城跡

山崎への道

山崎は陣屋町で、現在でも宍粟市の市役所や中国自動車道のインターチェンジもある宍粟郡の中心地です。この山崎への道は船渡村から揖保川右岸を北上する道が描かれており、現在の県道26号宍粟新宮線に該当する道筋だけに、多くの往来があったと想像できます。現在の国道29号と同じように東の安志村から山崎に入ってくる道もありますが、こちらは姫路市内の経路が現在の国道29号とは異なっています。また、現在の県道53号宍粟下徳久線や県道72号若桜下三河線に相当する宍粟市旧千種町域、佐用町旧南光町域への道もあり、山崎は揖保川流域にありながらも千種川流域の村も含めた地域の中心地であったことが窺えます。

下三河の道標
下三河の道標

天保国絵図に描かれた林田・安志・山崎への道はいずれも現在の国道29号とは違った道筋であるのが興味深く、また、宍粟郡の中心地である山崎すらも細線の道しかありません。戸倉峠を越えて因幡国に入る現在の国道29号の道筋は一応存在していますが、江戸時代には鳥取への道は佐用・智頭経由が一般的で、山崎・若桜経由の道はローカルなものだったと考えられます。

因幡国への道

因幡国との国境には2つの道が描かれています。北は戸倉峠を越える現在の国道29号の道筋で、若桜の方へ抜けていきます。因幡国境を目前として一里塚も描かれた太線の道に変わりますが、これは但馬国に抜ける県道48号大屋波賀線の道筋の方がメインであったことを表していると言えます。

千種川流域からも道があり、これは県道72号若桜下三河線の道筋ですが、こちらは開通しておらず、宍粟市の旧千種町域から鳥取県に自動車で直接抜けることはできません。ただ、地元ではこの県道の開通の要望はあるようで、現在でも人の流れは少しはあるようです。

なお、江戸時代も現在も播磨国姫路から因幡国鳥取へのルートとして最もよく利用されているのは智頭経由の因幡街道で、鉄道の智頭急行智頭線、高速道路の鳥取自動車道もそのルートで開通していますが、因幡街道はいったん美作国を経由して因幡国に入ります。

因幡街道大原宿 因幡街道は美作国を経由していた
因幡街道大原宿 因幡街道は美作国を経由していた

美作国への道

播磨国から美作国の道と言えば、釜坂峠を越えて大原へ抜ける因幡街道と万能峠を越えて土居に抜ける出雲街道で、天保国絵図にも一里塚付きの太線で描かれ、現在もそれぞれ国道373号と国道179号になっています。

その他には西山村から後山村に抜ける道、上三河村から海内村に抜ける道、才元村から富原村に抜ける道、海田村から田原村に抜ける道、小日山村から白水村に抜ける道筋があり、合計7本の道があります。それぞれ現在の国道429号、県道443号上三河平福線、県道124号宮原力万線、県道365号上福原佐用線となっており、最南端の小日山から白水への道だけが現在の道路になっていません。なお、あまり知られていませんが、播磨国と美作国の国境は現在の兵庫県と岡山県との県境と一致しておらず、現在の智頭急行石井駅周辺のいくつかの村は美作国でありながら現在は兵庫県佐用町となっています。

中世の出雲街道が通った杉坂峠の道は天保国絵図にも描かれている
中世の出雲街道が通った杉坂峠の道は天保国絵図にも描かれている

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